アサルト委員長、カラシに興奮

一人の人間の死は悲劇だが、数百万の人間の死は統計上の数字に過ぎない

ジョン グリシャム 『陪審評決』

 

ジョン グリシャム 『陪審評決』

タバコ会社を相手どって肺癌患者の遺族が製造物責任訴訟を起こした。今まで一度も敗訴していないタバコ業界は、裁判係争処理専門家のランキン・フィッチを使い、裏工作を進めていく。計画的に陪審員に潜り込んだニコラス・イースターは、恋人のマーニーと協力して、陪審員の意見をコントロールする。

 

裁判員への威圧か 工藤会の知人声掛け 揺らぐ制度の根幹 庁舎外での保護なし - 西日本新聞

この記事読んでふとこの本思い出しました。おすすめです。

 

辛子煮昆布

藤本ひとみ 『聖戦ヴァンデ』

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藤本ひとみ 『聖戦ヴァンデ』

 藤本ひとみ先生の文章って読みやすいですよね~。藤本先生の作品ではこの『聖戦ヴァンデ』が一番のお気に入りです。

 

フランス革命初日、バスティーユ陥落に狂喜するパリの街頭で出会った三人の青年。

貴族出身の国王騎兵隊士官アンリ、その副官で親友の伍長ニコラ、そして革命を信奉する寄宿学生ジュリアン。

激変する政情は、彼らを激しく対立させ、革命史上最大の大量虐殺へと導いていく。

青年たちの友情と憎悪、別れと再会を通じ、革命美談の裏に隠されてきたフランス史の暗黒を暴く、渾身の力作長編。(上巻)

1793年2月、30万募兵令が全国に向けて発布され、ヴァンデ地方は、ついに武装蜂起した。

貴族としての誇りに生きる21歳のアンリは、10万のヴァンデ軍の先頭に立つ。

それを迎え討つは、革命を信じ、大量殺戮をも辞さぬ覚悟の公安委員会代理ジュリアン19歳、そしてアンリの敵として対峙せざるをえなくなった西部方面軍最高責任者ニコラ25歳。

3人は激突を回避できるか。祖国に身を捧げる若き情熱を描く力作長編、完結。(下巻)
「BOOK」データベースより

バスティーユ陥落に狂喜するパリ市民に少年ジュリアンは苛立ち書きつづる。

バスティーユを陥落させたことは、取るに足らない。王座を打倒すべきである」
この一枚のビラが当時、弱小勢力だったロベスピエールの心の支えとなる。

革命によって王を失い、信仰を奪われ、重税と徴兵に苦しむ農民達。
強制的募兵の廃止、ローマカトリック教の継続、王制の復活を求めてヴァンデ地方の地方領主と農民達が武力蜂起に踏み切る。

領民から求められボビニエ村の指導者として立つことを決意したアンリは一同を見回し、凛然とした声を響かせた。
「一つ、私が前進したら私に続け。どこまでも私の後に従い、私のなす事をなせ。二つ、私が怯んだら私を殺せ。三つ、私が死んだら、私の復讐をしろ。私と同じ意思を持ち、私の行動を継ぐ者は皆、私だ。平和と信仰のために戦うものは、私なのだ。村の中から次の私を選びムッシュウ・アンリと名乗らせろ。そしてその男に付いていけ。それが私の復讐であり、弔いとなる」

崇拝するロベスピエールの代理人としてヴァンデ鎮圧を命じられたジュリアンは将軍達の前で言い放つ
「この農村地帯。ヴァンデ軍に兵を提供し、彼らを憩わせ、休ませ、食べさせるこの土地、彼らが地形を熟知し、戦いを有利に展開できるこの地方全体が、彼らを擁護しているのです。よって彼らを殲滅し、この戦いを終わらせるためには、森林と農村部の徹底的な破壊、ヴァンデの兵となりうるすべての男性と、それらを生み育てるすべての女性の殺害。以上が必要です」

親友のアンリと道を別ち共和国軍に身を投じたニコラ、アンリに憧れる少女フロル、ヴァンデ軍の将と農民達、そしてロベスピエール。魅力的な登場人物が絡み合いフランス革命の暗部である最大の内戦、ヴァンデ戦争が生き生きと描かれています。

ラストの少女の言葉に涙腺崩壊!


お勧めです。

 

辛子煮昆布


参考

ヴァンデの反乱 - Wikipedia


フランス革命におけるヴァンデ戦争の史的位置
http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN00104138/ISS0000335976_jp.html
ヴァンデ戦争が革命の推移に及ぼした影響について書かれた文章。興味深い。一気に読んでしまいました。

 

 

五味川純平 『人間の條件』

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五味川純平 『人間の條件


珍しく棉のような雪が静かに舞い降りる宵闇、一九四三年の満洲で梶と美千子の愛の物語がはじまる。植民地に生きる日本知識人の苦悶、良心と恐怖の葛藤、軍隊での暴力と屈辱、すべての愛と希望を濁流のように押し流す戦争…「魂の底揺れする迫力」と評された戦後文学の記念碑的傑作。 〔BOOKデータベースより〕 


物語の舞台は1943年の満州。主人公の梶は、鉱山開発の国策会社の模範社員。招集免除と引き換えに労務管理者として成績不振の鉱山に新婚の妻・美千子と共に赴任します。

現場の鉱山は組頭のピンハネや現場監督の労働者虐待で生産性が落ちていました。インテリで左翼がかった梶は、慈悲深い植民地支配者としてピンハネを解消したり虐待をやめさせる事で、「愛国的」な現場監督や役得を貪る古参社員と軋轢を深めながらも生産性を向上させていきます。

梶は侵略戦争に嫌悪を抱き日本の敗戦を必然と見ていましたが、戦略物資の増産に成功し有能な労務管理者として会社から表彰されるという皮肉な状況となります。

そんな梶に「人間の條件」が問われる一つの事件が起きます。憲兵に逆らうことで人間性を発揮した梶は、拷問された上に会社からやっかい払いのように招集免除を反古にされ軍隊に送られてしまいます。

初年兵の梶は大日本帝国陸軍という人間性を破壊して人間を絶対服従の戦争機械に仕立て上げる理不尽な組織の中で皮肉にも優秀な兵隊として頭角を現していく・・・。

大日本帝国満州支配、大日本帝国陸軍の「人間」を「兵隊」に作り替える仕組み、敗残兵の末路、支配者から敗戦国民に転落した人びと。あの戦争は何だったのか?そして「人間の條件」とは?

読了後、深く問い詰められている気持ちになりました。

お勧めです。

辛子煮昆布

追記・安彦良和の「虹色のトロツキー」や「王道の狗」を思い出しました。五味川純平の影響を深く受けていたんだなと感じました。