アサルト委員長、カラシに興奮

一人の人間の死は悲劇だが、数百万の人間の死は統計上の数字に過ぎない

五味川純平 『人間の條件』

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五味川純平 『人間の條件


珍しく棉のような雪が静かに舞い降りる宵闇、一九四三年の満洲で梶と美千子の愛の物語がはじまる。植民地に生きる日本知識人の苦悶、良心と恐怖の葛藤、軍隊での暴力と屈辱、すべての愛と希望を濁流のように押し流す戦争…「魂の底揺れする迫力」と評された戦後文学の記念碑的傑作。 〔BOOKデータベースより〕 


物語の舞台は1943年の満州。主人公の梶は、鉱山開発の国策会社の模範社員。招集免除と引き換えに労務管理者として成績不振の鉱山に新婚の妻・美千子と共に赴任します。

現場の鉱山は組頭のピンハネや現場監督の労働者虐待で生産性が落ちていました。インテリで左翼がかった梶は、慈悲深い植民地支配者としてピンハネを解消したり虐待をやめさせる事で、「愛国的」な現場監督や役得を貪る古参社員と軋轢を深めながらも生産性を向上させていきます。

梶は侵略戦争に嫌悪を抱き日本の敗戦を必然と見ていましたが、戦略物資の増産に成功し有能な労務管理者として会社から表彰されるという皮肉な状況となります。

そんな梶に「人間の條件」が問われる一つの事件が起きます。憲兵に逆らうことで人間性を発揮した梶は、拷問された上に会社からやっかい払いのように招集免除を反古にされ軍隊に送られてしまいます。

初年兵の梶は大日本帝国陸軍という人間性を破壊して人間を絶対服従の戦争機械に仕立て上げる理不尽な組織の中で皮肉にも優秀な兵隊として頭角を現していく・・・。

大日本帝国満州支配、大日本帝国陸軍の「人間」を「兵隊」に作り替える仕組み、敗残兵の末路、支配者から敗戦国民に転落した人びと。あの戦争は何だったのか?そして「人間の條件」とは?

読了後、深く問い詰められている気持ちになりました。

お勧めです。

辛子煮昆布

追記・安彦良和の「虹色のトロツキー」や「王道の狗」を思い出しました。五味川純平の影響を深く受けていたんだなと感じました。